海の食物連鎖の頂点に立つサメについて、みなさんはどのような印象をお持ちですか?
まるで映画の「ジョーズ」に出てくるような恐ろしい人食いザメというイメージを抱いている方が多いのではないでしょうか。
実は、サメよりも恐ろしいのは人間なのです。
国際的なサメによる被害情報のデータベース「インターナショナル・シャーク・アタック・ファイル(ISAF)」によると、2022年にサメによって命を奪われた人間の数は9人です。
2017年から2022年の5年間の平均は年間6件です。
それに対して、漁獲により死亡しているサメの仲間の数は毎年1億匹と推定されています(Davis et al.2013)。
今回のブログでは、サメのヒレだけ取るシャークフィニングの問題、フカヒレ問題、持続可能なサメ漁について考えます。
シャークフィニングとは
まず、はじめにサメのヒレだけ取るシャークフィニングの問題について解説します。
シャークフィニングとは何か
※残酷なシーンが含まれているためご注意ください。
シャークフィニング(shark finning)とは、サメを捕獲して生きたまま背びれや胸ビレや尾ビレだけを切り落とし、魚体を生きたまま海に廃棄することです。
フカヒレを取った後サメを海に捨てる
※残酷なシーンが含まれているためご注意ください。
サメのヒレだけ取るシャークフィニングの残酷さは、フカヒレスープの材料となるサメのヒレを取った後、サメを生きたまま海に捨てることです。
ヒレのないサメは当然泳ぐことはできません。
また、切り取られたヒレが再生することはありません。
そのまま海底に沈み、溺れて死んでしまいます。
なぜシャークフィニングを行うのか
サメのヒレはフカヒレとして高価ですが、他の部位についてはマグロなど他の魚よりも価値が低い魚です。
また、サメは大型なため漁船で漁獲物をしまっておく魚倉(ぎょそう、魚艙)のスペースを確保するにも一苦労。
商業的な価値が低いサメを船に積むのは邪魔ということですね。
European Elasmobranch Association(EEA)の資料によると、サメのヒレの重さは平均して体重の2%です。
つまり、サメのヒレだけなら高価な上に大量に持ち帰ることが可能なため、シャークフィニングが行われるようになりました。
死んだサメのヒレ切りならOK?
生きたサメのヒレを切り海に投棄することは残酷な行為です。
では、死んだサメなら?
答えは、No!
死んだサメのヒレ切りならOKということはありません。
シャークフィニングの残酷さは生きたままヒレを切り海に投棄することだけではないのです。
サメ漁にはフカヒレだけではなく、サメ肉や肝油を目当てとしたものもあります。
つまり、シャークフィニングでサメの魚体を海に投棄しておきながら、それとは別に肉や肝油のためのサメ漁もおこなわれることもあるのです。
もしも、死なせてしまったサメを海に投棄せずに活用していたなら、サメ肉や肝油のために犠牲になるサメの数は減るはずです。
サメ肉や肝油のためのサメ漁をするぐらいならサメのヒレだけ取るシャークフィニングなどはやめて、捕獲したサメを丸ごと活用するべきではないでしょうか。
残酷なシャークフィニングへの規制
この残酷すぎるシャークフィニングやフカヒレについては、漁業管理機関や国・地域によっては規制・禁止されています。
2016年には、サメの多さが世界一のガラパゴスでフカヒレ密漁が増加したため、周辺海域に新たに禁漁区が設けられました(National Geographic)。
太平洋を含む国際的な漁業管理機関もシャークフィニングを禁止しています。
ところが、報告されるサメの数と市場に出回るサメのヒレの数は大きく乖離しているとみられています。
このように、シャークフィニングやフカヒレ漁に対して規制・禁止することは一見サメの保全には有効にみえますが、かえってフカヒレを目的としたサメの密漁などの違法行為を招くという面もあるのです(参考記事:「フカヒレを目的としたサメの密漁の問題【魚の倫理とSDGs14】」)記事。
シャークフィニングの今
2018年には日本のマグロ漁船の乗務員が約1年間でフカヒレ目当てでサメ約300匹を密漁していた疑い。
この乗務員はインドネシア国籍で「生きたサメからヒレを切って、体を投げ捨てた。船長から指示された」と供述しているとのこと(参考記事:「日本のマグロ漁船サメ密猟の疑い インドネシア人漁師供述の真相は?」)記事。
2019年には、南アフリカのケープタウンにあるストランドフォンテイン海岸で、頭や背ビレ、尾ビレを切り取られた数十匹のサメの赤ちゃんが大量に捨てられているのが見つかりました(Yusuf Abramjee)。
2021年には、英語版の共同通信にて、中国まぐろ漁船でシャークフィニングが大規模に行われていたことを乗務員が報告したということが明らかになりました。
この記事には2017年から2020年の間に撮影されたシャークフィニングの写真が掲載されています。
シャークフィニングはすべての遠洋マグロ漁業で禁止されており、中国を含むすべての国の少なくとも3分の1の国で禁止されています。
それにもかかわらず、中国のマグロ漁船が公海で毎年何万、何十万ものサメにシャークフィニングを行なっていたことは許しがたいです。
中国のマグロ漁船によるシャークフィニングにはヨゴレなどの絶滅危惧種のサメも含まれていたそうです(参考記事:「Shark finning rampant across Chinese tuna firm’s fleet」)。
サメ漁とフカヒレ問題
※残酷なシーンが含まれているためご注意ください。
サメへの残酷さだけがシャークフィニングをやめるべき理由ではありません。
もうひとつの大きな理由は、サメ漁が世界中のサメの個体数の減少に大きな影響を及ぼしているからです。
前述のように、世界中で毎年1億匹以上のサメが殺されていると推定されています(Worm et al.2013)。
その目的の多くがフカヒレです。
フカヒレは中国で四大海味(なまこ、あわび、魚の浮袋、フカヒレ)を使った漢方薬膳料理として人気があり、フカヒレスープの材料として重宝されています。
フカヒレの需要
- フカヒレ輸入量の世界首位は香港で8万3210トン、2位はマレーシアで3万3894トン
- フカヒレ輸出量はタイが4万7208トンで首位、2位は香港で4万1877トン(Ref.5)
フカヒレスープは東アジアや東南アジアをはじめとしたアジアの各地で高級な料理として人気があります。
世界のフカヒレ消費量の90%以上は中国によるもので、香港だけで世界のフカヒレ取引の約50%を占めています。(Ref.3)
このフカヒレスープに利用されるフカヒレの取引の増加は、多くのサメたちにとって深刻な脅威です。
最新の調査によると、毎年、世界の商業漁業などで少なくとも1年で1億匹以上ものサメが殺されていると推定されています。
これは1日に約24万7,000匹のサメが殺され、1時間ごとに11,000匹以上という驚異的な数のサメが殺されている計算になります。
その多くはフカヒレスープに利用するためのヒレを取引することを狙ったものであると考えられています(Ref.1)。
香港とフカヒレ
世界のフカヒレ取引の約50%を占めている香港。
その香港でフカヒレを使ったスープは、香港の伝統的な結婚披露宴の定番メニューのひとつです。
参列者が「最も楽しみ」にしているフカヒレスープですが、フカヒレを目当てにしたサメの乱獲が国際的に問題視されているのを受け、フカヒレスープを出さない披露宴を選ぶ若者カップルが増えているそうです。フカヒレなし披露宴は海洋生態保護に貢献できるだけではなく、費用も抑えることができるので若者の間で人気となっています。
2015年に香港でフカヒレが提供された披露宴は6割だったそうです。高級ホテル「ザ・ペニンシュラ」を展開する香港上海大酒店は、2012年からフカヒレ料理の提供を停止。香港のキャセイパシフィック航空も2015年6月、フカヒレ製品の輸送を禁止しました。(Ref.5)
シンガポールとフカヒレ
実はシンガポール料理でもフカヒレが用いられることも多いのですが、サメの乱獲が問題視されているため、近年は消費抑制の動きが続いています。
2014年には、シンガポールを代表する観光ホテルのマリーナベイ・サンズが敷地内での提供を中止する決定、シンガポール航空の貨物部門も取り扱い停止を発表。
また、WWfがシンガポールで2016年に実施した調査によると、82%の消費者がフカヒレを1年以上食べていないと回答したそうです。
(Ref.4)
フカヒレと文化
フカヒレ漁の問題で難しい点は、フカヒレスープは自分たちの文化の一部だと感じている人たちにフカヒレをやめてもらうことは困難だということです。
フカヒレは、400年以上前に明の皇帝が初めて要求して以来、中国文化の中で特別なご馳走とされてきました。
また、フカヒレが伝統的な結婚披露宴の定番メニューとなっている香港では年配者を中心に「披露宴でフカヒレを出さないと失礼」という考えも根強いそうです。(Ref.5)
何ごとも「文化」といわれてしまうとそこを汚してはいけないような聖域になってしまうように感じます。
たとえば、フカヒレが好きという人に対して問題点について伝えるのと、フカヒレは文化です!という人に問題点を伝えるのは重みも違いますし、配慮も変わってしまいます。
フカヒレは中国で滋養強壮や不老不死の秘薬といわれていますが、不老不死なんてありえないことは誰でも知っていますよね。
それでも、「文化」といわれてしまうと仕方ないのかなという気持ちが湧いてきませんか?
また、「文化」といわれてしまうとフカヒレを滋養強壮や不老不死の秘薬と信じることを否定するのには罪悪感のようなものすら感じてしまいます。
そういう意味では、「文化」という主張してしまうことは相手に踏み込む隙を与えたくないときにうまく利用できるという怖さもありますね。
参考:石井 敦、真田 康弘『クジラコンプレックス 捕鯨裁判の勝者はだれか』、東京書籍、2015年。
日本でサメはフカヒレ、地方料理での珍味、珍味かまぼこなどの練り物や鮫皮おろしとして活用されており、サメを食べたりすることは文化のひとつといわれています(わたしはサメを食べないので日本といってしまうと主語が大きすぎるかもしれませんが)。
最近では、水族館でのフードコートでもサメ肉を使ったナゲットやカレーなどを食べる場所もあるので、サメを食べたことがある人も増えてきているかもしれません。
また、サメを使った料理、レシピ、実食レビューなどをSNSなどで目にすることも多いのではないでしょうか。
文化としてサメを食べていく日本や中国では特にフカヒレ取引に関する規制の強化、数を管理しながら持続可能なサメ漁をおこなうことが今後一層求められるのではないでしょうか。
サメの保護とフカヒレ漁の規制
世界中でサメが生態系や人々にとってどれほど重要であるかという認識が広がり、さまざまな規模でサメの保護が始まっています。
2013年初頭、ワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)は、付録IIにさらに5種のサメを掲載しました。これは、現在絶滅の危機に瀕していないが、取引を規制せずに絶滅の危機に瀕する可能性のある種のリストです。
さらに、多くの国が持続可能な漁業のために独自の保護を行っており、1994年以来、22か国がフカヒレ漁に規制を課しています。
また、中国はフカヒレ漁の終結に向けて取り組んでいます。
フカヒレの文化的価値を下げるために、中国政府は2012年に公式の宴会でふかひれスープを提供することを禁止し始めました。
高級ホテルグループであるペニンシュラホテル、シャングリラホテルは、2012年1月からふかひれを使った料理の提供を止めることを表明しています。
サメの個体数は減少し続けている
今日では、一部のサメの個体数は人間のサメの漁業のために個体数が60〜70%減少しています(Ref.1)。
サメの寿命は非常に長く、成長も遅く、繁殖しても一度に数匹の子供しか産めない種もあり繁殖率が低いため、乱獲の影響を非常に受けやすいのです。
そのため、多くのサメたちは個体数が減少するのと同じ速度で個体数を増やすことは困難ということになります。
2022年現在、IUCNレッドリストでは、世界のサメ類557種のうち、およそ30%弱にあたる168種が絶滅危惧種と評価されています。
その原因は、フカヒレ漁、混獲、乱獲などによる漁獲圧、および海洋汚染など人間による影響が大きいのです。
アカシュモクザメととシロシュモクザメのうち130万匹から270万匹がフカヒレの取引で毎年殺されていると考えられています。
害獣や海のギャングと揶揄されるサメたちですが、再繁殖して回復する能力は非常に低いのです。
サメに限らず、過剰漁獲された魚類は生物学的に持続不可能となってしまいます。
どのような対策を講じたとしても、すべての魚種資源を短期間で再構築することはできません。
漁獲量に対する管理規制が効果的な結果をもたらすためには、通常、その魚の寿命の2〜3倍の期間が必要となります。
魚類の中でもサメは長寿種です。
水揚げ量が多いヨシキリザメ(Blue shark / Prionace glauca)の寿命が20歳、アオザメ(Shortfin mako shark / Isurus oxyrinchus)の寿命は30歳前後といわれています。
長寿種であるサメの個体数を増やすのに寿命の2〜3倍の期間が必要だとすると40〜90年もの時間がかかることになります。
絶滅危惧種のサメもフカヒレに
サメのヒレの多くはアジア市場に出回っています。
研究者と環境保護団体のチームがアメリカ国内のレストランでフカヒレスープを集めました。
その目的はフカヒレスープに含まれるサメの遺伝子を調べることです。
アメリカの14都市から集められた51のフカヒレスープを調べたところ、その結果は驚くようなものとなってしまいました。
DNA検査の結果、8種類のサメが確認され、その中には絶滅危惧種のサメも含まれていたのです。
ボストンで採取されたフカヒレスープには、アカシュモクザメが含まれていました。
アカシュモクザメは、国際自然保護連合の絶滅危惧種のレッドリストで絶滅危惧種とされています。(Ref.2)
また、フカヒレ貿易の中心地である香港のフカヒレ取引では特定されたサメの3分の1以上の種が絶滅の危機に瀕していることがわかっています。(Ref.3)
フカヒレの需要は世界中のサメたちが直面している最大の脅威のひとつです。
現在、香港がフカヒレ貿易の拠点となっていますが、その貿易に貢献している国は約80数カ国にのぼります。(Ref.2)
漁業では特定の魚だけ避けるということができません。
そうなると当然、絶滅危惧種のサメも捕まってしまいます。
サメの保護活動や環境問題への意識が高いイギリスですら、フィッシュ&チップスに絶滅危惧種のサメの肉が使われていたことがわかりました。そのようなことが起きてしまう理由は、混獲してしまったサメについては販売することに問題がないからです。
魚を獲ればサメが獲れます。
混獲を避けることはできません。
そのため、混獲などで死なせてしまった絶滅危惧種のサメについては食べるなどして活用することはせめてもの報いです。
この状況下で、サメを守るにはオーシャンDNAによるサメの分布の調査、海洋保護区の設置などが考えられます。
※オーシャンDNA(海水中のDNAを解析し海洋生物群の分布や回遊ルートなどがわかる生物海図の作成に利用できることが期待されている。東大×SDGs: 先端知からみえてくる未来のカタチ)
サメの保全と社会活動は切り離せないものであり、どちらにも配慮が必要です。
海洋保護区の設置は簡単なことではないかもしれませんが、チリのように持続的な漁業のために小さな保護区を随所に作るというやり方がもっと広まれば、漁業で生計を立てている人の生活もサメたちも守ることができるのではないでしょうか。(参考:海の保全生態学)
気仙沼のフカヒレ事情は?
日本の気仙沼のサメ漁の水揚げの8割を占めるヨシキリザメは、マグロと一緒に漁獲されます。
シャークフィニングは行わず、サメのひれをつけたままで港に水揚げします。その後、サメの加工会社で、身・皮・骨・ヒレなどまるごと加工されていきます。気仙沼ではサメの総合活用が行われており、不要な部分を海中に投棄するようなシャークフィニングとは対照的です。
ヨシキリザメのような絶滅危惧種ではないサメも個体数に限りがあります。そのため、資源管理をしつつ、サメの総合活用をするということが大切でしょう。
資源を無駄なく使おうという気仙沼のサメ総合活用は持続可能なサメ漁のモデルケースになるのではないでしょうか。残酷なシャークフィニングをせずとも、良質なフカヒレの加工して、余すことなく活用する気仙沼のサメの総合活用が世界に広まっていくことは倫理的な観点からもみても価値のあることだと考えます。
気仙沼にはシャークミュージアムがあります。
シャークミュージアムは実物大模型の設置やさまざまな体験展示を行う国内唯一のサメの博物館です。
また、東日本大震災で被災した気仙沼の復興を紹介するシアターも併設しています。気仙沼と深いつながりをもつ「サメ」をキーワードにした体感型展示が見どころ。
このようにサメについて学ぶ場を併設しているという面でも気仙沼のサメ総合活用は見事です。
サメを保全する方法は?
人間が魚を食べる限り、サメの混獲を避けるということは不可能です。
では、どのようにしてサメたちと付き合っていけばいいのでしょうか。
持続的なサメ漁業や保全の方法について考えてみました。
持続可能な方法で漁獲された「サステナブル・シーフード」を目指す
サステナブル・シーフードを実現するためには、漁獲量の管理、漁具の改良、MSC認証を活用するなどの方法があります。
ヨシキリザメの水揚げ量が全国一位の気仙沼では、2021年、「気仙沼ヨシキリザメ・メカジキはえ縄漁業改善プロジェクト」が始まりました。このプロジェクトでは、気仙沼のサメ漁業は乱獲していないこと、シャークフィニングを行なっていないことを証明して、持続可能な漁業を行なっている証しであるMSC認証を2026年までに取得することを目指しています。
そのために、管理確認方法の改善、漁獲情報や生態系の影響に関する情報収集の精度向上などの課題の解決に取り組んでいるそうです。MSC認証の取得のためには、乱獲をしないこと、海洋生態系への影響を考慮すること、持続可能な方法で漁業を行うことなどが求められます。
MSC認証の取得を目指すことはサメ産業に携わる人々の生活を守りつつ、サメの資源管理を強化することができるので、社会活動とサメを同時に保全することができる方法といえるでしょう。(参考記事「〈変わる海・漁業転換〉サメ無駄なく活用 持続可能産業へ世界発信」、「日本初! MSC認証取得を目指して ヨシキリザメ・メカジキはえ縄漁業改善プロジェクト(FIP)を開始[シーフードレガシー]」)
わたしたち消費者も、MSC認証がついたサステナブル・シーフードを購入することで、持続可能な漁業を支援することができます。
漁業者にあれこれ要望するだけではなく、わたしたち消費者もサステナブル・シーフードの必要性について理解して、選ぶということが大切です。
フカヒレよりも経済効果が大きいエコツーリズム
フカヒレよりも大きな経済効果を上げる方法はサメをいかしたエコツーリズムです。
2016年に米国が輸出したフカヒレの収益は100万ドル以下でしたが、フロリダ州でのサメ関連のダイビングだけで2億2100万ドル以上の収益を上げ、同年に3700人以上の雇用を促進しました。つまり、フロリダ州のサメ観光による収益は、米国の全フカヒレ輸出の200倍以上にもなります。(Ref.3)
このようにサメを観光にいかしたエコツーリズムのような非消費的利用の動きが広まっていくとサメの保全につながっていくかもしれません。また、経済効果があるということは雇用を生み出すのでサメの保全だけではなく、人間社会も守ることができます。
フカヒレになってしまったらサメの経済効果は一回きりですが、エコツーリズムなら何回でも経済効果をもたらしてくれます。
人工フカヒレを活用する
人工フカヒレとは、フカヒレ漁のためにサメが乱獲されることを防ぐために、ゼラチンや海藻由来成分などを原料に開発された商品です。
食感と透明感はまるでフカヒレというゼラチン加工食品の人工フカヒレ。
ZIPが行なった調査でも、本物と比較しても見た目に目立った違いはなく、本物のフカヒレスープと食べ比べてみてもハッキリとした違いはわからないとのことでした。
高級食材フカヒレと人工フカヒレ、その違いって何?
高級中華料理店の調理長さんに伺うと、フカヒレ自体はほぼ無味無臭とのこと。
味と香りでは、人工フカヒレとの判別できない。
引用:ZIP
日本と欧米のサメ保護論について思うこと
わたし個人の立場としては、欧米のサメ保護論とそれに対する日本の反論の両方を批判的に捉え、自分なりのサメの保護・保全論について試行錯誤をしています。
気仙沼のサメ漁については持続可能なサメ漁に取り組んでいると思うのですが、国外でのサメ漁については気になる点があります。
日本は海外のサメ保護論に対して、「正確な情報提供に努めつつ、機会を捉えて反論する」と主張しています。ところが、日本のサメ漁への取り組みについて、じっくり調べていくと疑問を感じる部分があるのも事実。
たとえば、サメ漁やフカヒレを肯定する日本側の資料や主張では、サメは繁殖率が低く乱獲に弱いことには触れられていません。サメが絶滅危機ということについて、「外国の環境団体がクジラのときと同じように騒いでいるだけ」という批判が日本側にありますが、そういう問題ではありません。確かに、一部の環境団体はセンセーショナルな情報発信を行い、誤解を招いていることは事実です。
しかしながら、サメが絶滅危機にあることに対して警鐘を鳴らしているのは環境団体ではなく研究者です。
ネイチャー誌に掲載された論文によると、1970年以降、相対的な漁獲圧が18倍に増加したため、世界のサメ・エイ資源量は71%減少ということが明らかになりました(Pacoureau et al.2021)。
そのような状況でサメの個体数減少の問題には触れずに、「ネズミザメやヨシキリザメの資源量は安定しています!サメを食べましょう!」と主張するのは違うのではないでしょうか。
また、サメと水銀の問題についても外国の環境団体の言いがかりのように扱われてしまいますが、サメと水銀については厚生労働省が「魚介類に含まれる水銀について」で妊婦、子ども、一般、イルカ・クジラの多食者などに向けて、「食物連鎖の上位にある、サメやカジキなどの大型魚や、一部のハクジラのほか、キンメダイのような深海魚等は、比較的多くのメチル水銀を含んでいます。」と言及しています。
サメを有効活用して持続的に食べていくことを主張するからこそ、
- 不都合な情報を明らかにしつつ、絶滅の危機に陥っている種もいるサメをどう持続的に活用していくか→保全
- 混獲したサメを廃棄しないためにサメ食を推進する→利用
という保全と利用の両面からアプローチするべきと思います。
日本人だから日本の言い分をすべて信じる、サメが好きだから欧米のサメ保護論をすべて信じるというのはどちらも間違っていると思います。わたしはサメを食べたくないのでそこだけ切り取ると欧米のサメ保護論寄りかもしれません。
しかしながら、双方の主張をすべてを鵜呑みにせず精査し、疑問をもちながら、サメの保護・保全について考えていくことこそが大切だと考えています。
おわりに
現在、サメやエイ、ギンザメを含む「軟骨魚類」のうち絶滅危惧種と認定されているのは167種のサメと114種のエイと1種類のギンザメです。
これは「軟骨魚類」全体のおよそ4分の1にあたり、ホホジロザメやジンベエザメやシュモクザメの仲間も含まれています。
今のところ脅威にされされていないと考えられる種は、全体の23%しかいません。
ここまで述べたようにフカヒレ問題は文化や産業と結びついている面もあるので、みんなでやめましょうという簡単な話ではありません。
また、シャークフィニングをせずにすべてを活用し、資源管理も行なっているような持続可能なサメ漁については批判すべきではないと考えています(もちろん、わたしはサメ愛好家なのでわたし個人の感情論だけで意見するならばサメ漁をして欲しくはありませんが、これはあくまで「感情」です)。
ただし、シャークフィニングでヒレ切りをするのも、サメのすべてを活用することも、サメが死んでしまうことには変わりはありません。
そのため、日本が正しい、環境団体が正しいということを裁くのではなく、どうすればサメの個体数を維持できるのか、個体数が激減しているヨゴレの個体数を元に戻せるのかなど、サメをはじめとした海洋生物を主役とした議論を進めていくことが必要だと思います。
正直、日本ではワシントン条約や環境団体への反発、不都合な部分には触れることなくサメの活用だけをアピールしているケースが多く目につきます。サメがいなくなってしまっては、文化も活用もできなくなってしまいます。サメの有効活用もサメがいてこそできることなのです。
ワシントン条約や環境団体への反発ではなく、サメ食やフカヒレ文化、サメに関連した水産業を守ることを目的に、どうすればサメを保全できるのが、持続可能な漁業ができるのかを考えることこそが急務だと思います。
17の「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」に掲げられているように、わたしたちは海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用していくことに向き合うべきなのではないでしょうか。
自分一人が大きなことを変えることができるわけではありませんが、関心を持つこと、知ること、自分なりに調査して考えてみること。
このような些細な行動でも、それを世界中の人が行うことにより、ものごとが大きく変化していくということはあると思います。
「自分には何ができるんだろう?」
ぜひ、考えてみてください。
余談ですが、子どもの頃「サメ好きでしょ?今日の夕食はサメよ!」といわれたときに「好きってそういうことじゃない」と思って、テンションが下がったことを思い出しました。
(2)Learning English, “Efforts to End Shark Finning Make Progress” 2021年2月26日に閲覧
(3)Oceana, “TELL CONGRESS: BAN THE TRADE OF SHARK FINS IN THE U.S.” 2021年2月26日に閲覧
(4)産経新聞電子版(2017.6.13 05:00)『シンガポール、フカヒレ貿易規模高止まり 国内では消費抑制の動き』、2021年6月28日に閲覧
(5)産経新聞電子版(2017.7.24 05:00)『披露宴のフカヒレ姿消す? 香港、サメ乱獲で若者は自制』、2021年6月28日に閲覧
"Global catches, exploitation rates, and rebuilding options for sharks",2013
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