サメは恐竜よりも長く地球上に存在している生きものです。
サメたちは大量絶滅期を乗り越え、現在も存在しています。
ところが、そのサメたちを絶滅の危機に追いやる恐ろしい天敵が現れたのです。
ホホジロザメはなぜ減っているのでしょうか?
今回のブログでは、なぜ、ホホジロザメが絶滅危惧種(危急種)のサメになってしまったのかという理由について解説します。
ホホジロザメはレッドリストの絶滅危惧種(危急種)
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストはホホジロザメの絶滅危機のレベルを何に分類しているのでしょうか。
そうなのです。
IUCNのレッドリストは、ホホジロザメを絶滅危機種(Threatened)のカテゴリーの中の「絶滅危惧種:危急(VU / Vulnerable)」と評価しています。
絶滅危機種というカテゴリーには、絶滅の危険が高い順に深刻な危機、危機、危急という3つの段階があります。
つまり、ホホジロザメは3段階ある絶滅危惧種の中で3番目に危機に瀕しているということです。
絶滅 | 絶滅危惧種 | 絶滅リスクは低い | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
1.絶滅(EX) | 2.野生絶滅(EW) | 3.深刻な危機(CR) | 4.危機(EN) | 5.危急(VU) | 6.準絶滅危惧(NT) | 7.低懸念(LC) |
どこにもいない | ほぼ絶滅 | かなりやばい | やばい | やばそう | そろそろやばい | 今は心配なし |
メガロドン | - | ヨゴレ、シロワニ、アカシュモクザメ | アオザメ、ニタリ、レモンザメ | オオメジロザメ、ホホジロザメ、クロヘリメジロザメ | イタチザメ、ヨシキリザメ | ネコザメ |
- | - | イリオモテヤマネコ、ラッコ | トキ、トラ | パンダ | トド | - |
- | - | - | ニホンウナギ | クロマグロ | - | ブリ |
※この他に、データ不足で正しく評価できない情報不足種 (DD / Data Deficient)、まだ評価がされていない未評価種 (NE / Not Evaluated)というふたつのカテゴリーがあります。
※IUCNレッドリストでは、未評価種 (NE)、情報不足種 (DD)、低懸念(LC)、.準絶滅危惧(NT)、絶滅危惧種(危急、危機、深刻な危機)、野生絶滅(EW)、絶滅(EX)の9つのカテゴリに分類しています。
※レッドリストについては『絶滅危惧種のサメの種類とは?IUCNレッドリストのまとめ【2021年10月版】』で解説しています。
なぜ?ホホジロザメが絶滅危惧種になった理由
なぜホホジロザメが絶滅危惧種になったのかという理由を見ていきましょう。
結論からいうと、ホホジロザメが絶滅危惧種になった理由のほとんどがわたしたち人間によるものです。
サメは人間の乱獲で絶滅の危機に直面
サメは海洋生態系の頂点に君臨する頂点捕食者(トップ・プレデター)です。
ところが、ホホジロザメだけではなく多くのサメたちが、人間による乱獲などにより絶滅の危機に直面しています。
IUCNレッドリストは、世界のサメ557種類のうち、およそ30%にあたる168種類が絶滅の危機に瀕していると推定しています。
その原因は、フカヒレ、サメ肉、スクワレンの需要による乱獲、マグロはえ縄漁などの漁業による混獲、ゲームフィッシングなどです。
ここ50年ほどでサメの個体数は世界中で大幅に減少しています。
映画『ジョーズ』の影響による乱獲
映画『ジョーズ』が公開されていた当時、映画の影響によるホホジロザメの乱獲が起きていました。1975年ごろといえば、今のように海の問題や保全という意識はない時代だったため、娯楽のために多くのホホジロザメが乱獲されてしまいました。
2022年12月18日、「本当に申し訳ないと思っています」と語ったのは、映画『ジョーズ』のスティーヴン・スピルバーグ監督。BBCラジオのインタビューで、「『ジョーズ』の影響で乱獲が進み、サメの個体数が減った」として、後悔の念を語ったそうです。
ホホジロザメは成熟するまでに時間がかかる
ホホジロザメだけではなく、世界中のサメの個体数は急速に減少しています。サメはゆっくりと成長するため成熟するまでに何年もかかります。また、サメは妊娠期間も長く、出産数が少いため繁殖率がとても低いのです。そのため、乱獲に対してとても脆弱です。
世界中で人食いザメとして恐れられているホホジロザメも成熟するまでに時間がかかるため、乱獲に対して特に脆弱なサメのうちの一種です。
ホホジロザメやヨゴレ、一見恐ろしい顔つきでありながらおとなしいサメのシロワニなど、多くのサメにとって人間ほど恐ろしい生き物はいないのです。
中にはヨシキリザメやイタチザメのように一度の出産で60匹以上産む多産のサメもいますが、それでも硬骨魚類と比較すると随分と少ない数です。ホホジロザメをはじめとした多くのサメたちは出産数が少ないために絶滅の危機にさらされていいます。
恐ろしさばかりが一人歩きしていますが、サメたちの置かれている現実はもっと知られるべきだと考えます。
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海洋汚染による水質悪化の問題
サメの問題は乱獲だけではなく、海洋汚染による水質悪化も問題です。
食物連鎖の頂点に立つ大型のサメたちは環境汚染の影響を受けやすいのです。
たとえば、二酸化炭素が増えて海が酸化してしまう海洋酸性化も海の環境悪化のひとつといえます。
サメの個体数を回復するにあたり、サメたちの暮らす水域の水質改善も大きな鍵となります。
また、海洋ゴミによるゴーストフィッシングの犠牲になってしまうサメもいます(参考記事:「ゴーストフィッシングとは?サメの事例、対策などについてわかりやすく解説」)。
ホホジロザメの個体数は?
※画像:「【海の食物連鎖】サメの生態系での役割とは?」
ホホジロザメ(ホオジロザメ)の個体数は世界で何匹くらいなのでしょうか。
ここではホホジロザメの個体数についてみていきましょう。
海洋生物の個体数に関しては調査方法などにより諸説ありますが、生きものの個体数は体の大きさによりピラミッド状になっています。
つまり、頂点捕食者であるホホジロザメの個体数はそもそも少ないということを心に留めながら読んでいただけたらと思います。
ホホジロザメの個体数は約3,500匹!?
海洋生物の多様性、分布、および個体数の調査・解析に取り組んできたグローバルな海洋生物研究ネットワーク「海洋生物のセンサス(人口調査)」(The Census of Marine Life: CoML)の調査によると、野生のホホジロザメは約3,500匹しか残っていないと推定されています。
この数は野生のトラの個体数3890頭(2016年)とほぼ同じです。
※野生のトラは2022年までにトラの生息数を倍増させる計画により、2016年までに20%増。世界のトラの個体数が増加したのは、100余年ぶり。
※個体数に関しては調査方法などにより諸説ありますが、生物の個体数は体の大きさによりピラミッド状になっているため、頂点捕食者の個体数はそもそも少ない。
ホホジロザメが多い海域での個体数
ホホジロザメが多い海域での個体数についてもいくつか調べてみました。
- カリフォルニア中部沖:300匹未満
- 南アフリカ:353~522匹
- グアダルーペ島:350匹以上
どこもサメのドキュメント番組でおなじみのホホジロザメが多い海域ですね。
ホホジロザメに限らず海の生きものの個体数を正確に数えることは困難ですが、どの場所も300匹くらいというのが気になりますね。
なお、南アフリカでは1991年にホホジロザメを保護するための法律が制定されました。ホホジロザメは南アフリカだけではなく、ナミビア、イスラエル、マルタ、モルディブ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランドなど、世界各地で保護されています。サメの保護論の歴史については『サメ保護論はいつから?歴史や背景をわかりやすく解説』をお読みください。
1970年代から50年ほどの間にサメの個体数が大幅に減少
また、ガーディアン紙によると、2007年、カナダのダルハウジー大学の海洋生物学者が、1970年代から2005年までの漁業と調査船の記録を分析したところ、サメの個体数が劇的に減少したことを発見しました。
米国東海岸沖では、イタチザメとアカシュモクザメは1980年代半ば以降97%以上減少、シロシュモクザメとオオメジロザメの数は99%減少しているとみられています。
サメが絶滅危惧になった理由は天敵である人間によるもの
このように漁業やレジャー、海洋ゴミなどで人間活動による原因で海の環境が悪くなり、世界中でサメの個体数の激減を引き起こしてきます。
世界中の多くの人々はホホジロザメをはじめとしたサメたちに否定的な印象をもっています。サメをひとまとめにして『ジョーズ』のモデルとなった人食いザメとして恐れているのです。サメが人を襲った事故の記憶ばかりが人々の意識に根付いてしまったことにより、多くの人がサメの絶滅を軽視している側面もあるように思います。
たとえば、ホホジロザメを捕まえて殺して海のギャングを退治!というニュースなどを目にすることもあります。
その「海のギャング」として殺されたホホジロザメは何か悪いことをしたのでしょうか。
1億匹以上ものサメが犠牲に!?
毎年、世界の商業漁業などで少なくとも1億匹以上ものサメが殺されており、1時間に1万匹以上のサメが漁獲されている計算になります。
その多くはフカヒレスープに使用されているヒレのためだけに殺されています。
一方、サメによって命を奪われる人間は毎年平均4人です。
人食いザメと恐れられているサメですが、サメにしてみれば海に進出してきた人間ほど恐ろしいものはないのです。
SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」にもあるように、これからの持続可能な世界において、人間とサメとのバランスを回復するための保護活動は不可欠です。
海のギャングや害獣として安易にサメを殺してしまう
フカヒレの問題や乱獲だけではなく、海のギャングや害獣として安易にサメを殺してしまうのも問題ではないでしょうか。
たとえば、2015年8月27日午前6時ごろ千葉県鋸南町の保田漁港の沖合2kmに定置網にかかったシュモクザメ2匹とイタチザメ1匹がかかりました。
3匹はいずれも全長1.5m以上とのことですが、人間を襲ったわけではありません。
同じ千葉県の旭市でも28日朝、岸から約100m離れた沖合でサメのような背びれの目撃情報があり、県が注意を呼び掛けていたとのことですが、こちらも目撃されただけであり人間に危害を加えたわけではありません。
【動画あり】千葉でサメ…定置網に3匹、“背びれ”の目撃情報も
世界のサメによる年間犠牲者は平均で6人です。
また、犠牲者を出すようなサメ事故の犯人は人間くらいの大きさの餌を食べる大型のサメによるものです。
全長1.5m程度のサメによる死亡事故は起きていません。
もちろん、いずれは大きくなり人を襲うかもしれないから危険だという考え方もあるでしょう。
しかしながら、サメによる被害は世界的な規模でみても平均で6人というのが現実です。
日本国内に関していうなら、熊や蜂の方がよっぽど危険な生き物です。
サメは危険生物と決めつけ、起きてもいない全長1.5m程度のサメによる事故を想定して殺処分するのは正しいことなのでしょうか。
わたしたち人間はまるで「神」のように地球上の生き物の価値を評価し、利用してきました。
その結果、サメをはじめとした多くの生き物が絶滅の危機に瀕しています。
昨今は持続可能な社会を実現するためのSDGsも一般的になってきました。
ここで「神」の視点は卒業して、地球上に生きる仲間として、サメをはじめとした多くの生き物に対する向き合い方を変える時期が来ているのではないでしょうか。
人間にとって危険なサメはホホジロザメ、オオメジロザメ、イタチザメ、ヨゴレ
サメ映画ジョーズが大ヒットしたことで、すべてのサメが人食いザメという間違ったイメージを持っている人がいます。
しかしながら、実際に人間にとって危険なサメはホホジロザメ、オオメジロザメ、イタチザメ、ヨゴレなどの限られた種類の大型のサメだけです。
つまり、人間にとって危険な可能性が高いサメというのは557種のうちの数種類程度ということです。
サメは必ずしも人食いザメというわけではない
サメによる襲撃事故の件数はどれくらいだと思いますか?
実は、サメによる襲撃事故の件数は人間が雷に打たれて死んだり、蜂に刺されて死ぬ数よりも少数です。
しかしながら、サメによる襲撃事故というものは強烈な記憶を残しがちなため、人々は必要以上にサメたちを人食いザメとして恐れ、嫌悪してしまいます。
サメたちはエサの選り好みをせず、手近なところにいるエサを襲う機会選択食者(opportunistic feeder)です。つまり人間を常食としているわけではなく、たまたま空腹時に人間と出会ってしまった場合にサメによる襲撃事故が起きるケースがあるのです。
一部の大型のサメが人食いザメというのは実際に事故が起きているため事実ともいえますが、人を好んで食べるわけではありません。
サメのことを人食いザメと決めつけ忌み嫌うのは筋違いです。
もちろん、大型のサメについては海中で出会ってしまうと危険な存在となってしまう可能性があるため警戒する必要はありますが。
サメの肝臓の油スクアレンがワクチンの材料に
サメの肝臓の油スクアレンがワクチンの材料に使用されることがあります。
スクアレンは化粧品などの原料に利用されていることはよく知られていると思いますが、人体の免疫反応を強める働きを持つ合成物質「アジュバント」の原料にもなります。スクアレンは、オリーブ油、小麦胚芽油、米ぬか油などの植物油にも天然に含まれていますが量が少ないため深海ザメが利用されています。そのため、スクワレンのためにサメが絶滅危惧の危機にさらされているのです。
また、新型コロナウイルス感染症の全202のワクチンの候補のうちの5つのワクチン候補は野生のサメから採ったスクアレンとも呼ばれる肝臓の油の材料としています。開発が進んでいる米ファイザー社と米モデルナ社のワクチンには使われていないとのことですが心配なニュースです。
参考記事:絶滅危惧の深海サメ、コロナが危機に拍車か 需要の高い60種の約半分に絶滅のおそれ、保護活動家らが懸念
サメの肝臓を狙うのは人間だけではなく、シャチも・・・!
シャチがホホジロザメの肝臓を狙うということについいては『ホホジロザメ vs シャチはどっちが強い?大きい?』をどうぞ!
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サメを絶滅の危機から救うための対策は?
サメを絶滅の危機から救うための対策にはいろいろあります。
まず国単位でのサメを絶滅の危機から救うための対策はサメの漁獲の規制、海洋保護区の設置、トレーサビリティーの確立などがあります。これらのことに市民レベルで関わることは難しいのですが、もっと簡単なサメの保全のためにできる対策もあります。
サメたちとの共存を考えることも絶滅の対策に
サメが絶滅危惧種になってしまった理由は乱獲やフカヒレだけではなく、海の環境の悪化も原因のひとつです。つまり、環境に配慮したライフスタイルを送るということはめぐりめぐってサメの保全の対策になるのです。大量消費をしない、不要なものを買わない、ムダな電力は使わないなど今からできる対策もたくさんあるはず!
サメを守るためにも地球に優しい生活をはじめてみませんか。
MUSEAブログでは、17の「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、14.海の豊かさを守ろうに取り組んでいきます。
ブログの特性を生かし、今後もサメの保護について取り組み、情報をアップデートしていきます。
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参考文献・サイト
谷内透『サメの自然史』東京大学出版会、1997年。
国際自然保護連合IUCN
Scientists Publish First Study of White Shark Population Trends off of California
The dwindling number great white sharks
Great White Sharks — SDM DivingCan white shark numbers be estimated?
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