乱獲による資源の枯渇、生態系バランスの悪化、絶滅危惧種の混獲、ゴーストフィッシング、海洋汚染など海はさまざまな問題を抱えています。
今回のブログでは、海と魚の問題について考えてみます。
海と魚の問題
はじめに海と魚の問題について考えてみます。
魚がいなくなった?
1945年10月16日に設立された『国連食糧農業機関(FAO / The Food and Agriculture Organization of the United Nations)』は、1950年以来、約200カ国で収集した漁獲データを『世界漁業・養殖業白書』として2年おきに公表しています。
※日本は1951年にFAOに加盟。2022年現在、194の加盟国、1加盟組織(欧州連合(EU))、2準加盟国(フェロー諸島、トケラウ)で構成されている。
この『世界漁業・養殖業白書2020』によると、現在、生物多様性を保ちつつ、持続可能なレベルにある世界の海洋水産資源(=魚たち)の割合は66%です。
過剰利用状態の資源 | 適正利用状態の資源 | 適正又は低・未利用状態の資源 |
---|---|---|
魚の数が少ない | 魚の数は普通 | 魚の数が多い |
獲りすぎて残りが少ない、絶滅の恐れ | これ以上は獲れない | もっと獲ってもOK |
1974年には漁獲量が適正レベルにある魚たちは90%!
その半分近くにあたる40%は資源量に余裕があるという状況でした。
ところが、2017年には漁獲量が適正レベルの魚の割合は66%まで下がった上に、もっと獲ってもOKな資源量に余裕のある魚の割合が6%ほどになってしまいました。
一方、過剰に漁獲されている魚たちの割合は、1974年の10%から右肩上がりで、2017年には34%まで増加しています。
過剰利用状態の資源 (魚の数が少ない) | 適正利用状態の資源 (魚の数は普通) | 適正又は低・未利用状態の資源 (魚の数が多い) | |
---|---|---|---|
1974年 | 10% | 50.76923% | 39.230769% |
2017年 | 34.2% | 59.6% | 6.2% |
適正又は低・未利用状態の資源が減り、過剰利用状態の資源が増えているということは海から魚がいなくなったということを示唆しています。
数字の引用;水産庁『図表4-3 世界の資源状況 エクセルデータ(CSV:977B)』
海から魚がいなくなる理由
海から魚がいなくなる理由のひとつは漁具・漁法の進化です。
この漁具・漁法の進化により漁獲量が増えた時期がありました。
ところが、漁獲量が魚の再生産能力を超えてしまうと、当然ながら過剰利用状態になってしまい資源量(魚の数)は減少してしまいます。
少ない資源量にも関わらずこれまで通りの漁獲量を目指すようになると、未成魚を獲るようになってしまい、ますます資源量は減ってしまうため絶滅の危機にさらされる魚も出てきます。
もちろん、海から魚がいなくなる理由は漁業だけではなく、自然変動が要因になっている場合もあるでしょう。
いえいえ、そういうわけにはいきません。
自然変動に乱獲が追い打ちをかけてしまうと、ますます魚はいなくなってしまいます。
要因が漁業であれ自然変動であれ、魚の数が減少しているのなら対策が必要です。
海外では、数が減少している魚が多くの卵を産めるように、漁獲を減らすのが一般的となっています。
養殖で増やせばいいのでは?
海は無限の食料庫、魚が減ってきたなら養殖で増やせばいいなどと考えている人は多いのではないでしょうか。
市場で人気のある魚を養殖で増やすというのは一見いいことに思えるでしょう。
当たり前のことですが、魚を養殖するには餌が必要です。
たとえば、養殖マグロを1kgを育てるには、サバの稚魚が15kg必要になります。
今後、効率のいい餌が開発されることもあるかもしれませんが、結局は何かしらの資源を消費しないと養殖はできないのです。
2048年には海から食用魚がいなくなる?
2048年には海から食用魚がいなくなるという話は海や魚を愛する多くの人が一度は耳にしているのではないでしょうか。
これは、カナダの大学をはじめとする国際チームが、2006年11月にアメリカの科学専門誌「サイエンス」に発表した研究報告です。
20世紀後半から2003年までのおおよそ50年間の水産資源について解析した結果、漁獲された魚のうち29%、マグロ、タラ、ヒラメなど大型捕食魚の漁獲量が10分の1に減少しました。
主な原因は海洋汚染、漁業技術の向上、資源に対する漁獲の圧力の増加、乱獲による海の生態系の破壊など、海に進出した人間によるものです。
また、湖や川でも同じ傾向がみられるため、このまま何の対策もしなければ、天然の魚介類は壊滅状態に陥ってしまうという警鐘です。
未来には魚を食べられない?
ところが、この2048年問題については懐疑的な研究者たちも多く、2048年には海から食用魚がいなくなるということはないという考え方の方が優勢です。
しかしながら、魚の数が少なくなっていること、どの国にも属さず誰もが自由に行き来できる公海における乱獲の問題は深刻です。
2048年には海から食用魚がいなくなるということはありませんが、ただ海からの恵みをうけるだけではなく、持続的に水産資源を利用するにはどうすればいいかということについて向き合っていく必要があります。
魚がいなくなるとどうなるか?
世界の人口は、2037年には90億人、2058年には100億人を超えると推測され、食糧不足が懸念されています。
持続的な漁業を行わずに獲り続けて、魚がいなくなるというような事態に陥ってしまうと食糧不足が現実のものとなってしまうでしょう。
海や魚のためにできること
では、わたしたちが海や魚のためにできることにはどんなことがあるのでしょうか。
魚の数の変動を上手に利用しよう
水産資源は正しく利用すれば、目減りしないようにすることもできますし、銀行の利息のように増やすことができます。
マグロなどの大型魚の減少している一方、アジやイワシなどの小型魚は増加傾向にあるため、資源量が豊かな魚を優先して利用しましょう。
たとえば、サンマが不漁な時期にはアジやブリを食べ、イワシが豊漁なときにはイワシをたくさん食べるような食生活を送るということです。
未利用魚を積極的に食べることもおすすめです。
未利用魚とは?種類の一覧や廃棄の問題についても解説
海に囲まれた日本では魚介類は主要な食料資源であり、魚食文化が形成されてきたにも関わらず、魚の消費は落ち込んでいます。 また近年、SDGsやフードロスなど観点から未利用魚が問題視されているのをご存知です ...
続きを見る
【魚のフードロス削減】未利用魚をサブスクで食べよう!Fishlle!(フィシュル)
Fishlle!(フィシュル)とは、十分な水揚げ量が無かったり、形が悪かったり傷がついていたり等の理由で価値が付かず、流通される前段階で通常の流通に乗らなくなってしまった未利用魚を活用したサブスクです。
未利用魚はなんと総水揚げ量の約30〜40%にも!
未利用魚の活用は、食べ物を粗末にしない、資源を無駄なく利用していこうという点でフードロスの削減になります。
フィシュルならミールパックだけでも旬なお魚や未利用魚をそのまま楽しむことができますが、アレンジレシピお届け!
絶滅の危機にある生き物を知ろう
IUCNレッドリストやワシントン条約などを学び、絶滅の危機にある生き物を知ることも、海や魚のためにできることのひとつです。
MUSEA BLOGでは、絶滅危惧種のサメについて『絶滅危惧種のサメの種類とは?IUCNレッドリストのまとめ【2021年10月版】』、『ワシントン条約(CITES / サイテス)のリストに掲載されたサメ類と日本の対応について』などの記事で解説しています。
ワシントン条約(CITES / サイテス)のリストに掲載されたサメ類と日本の対応について
ワシントン条約(CITES)とは ワシントン条約(CITES / サイテス:Convention on International Trade in Endangered Species of Wil ...
続きを見る
絶滅危惧種のサメの種類とは?IUCNレッドリストのまとめ【2023年12月版】
IUCNレッドリストによると現在サメ・エイの37%が絶滅の危機に瀕しています。 このブログでは、レッドリストの種類、IUCNレッドリストと環境省レッドリストの概要、IUCNレッドリストの評価の見方、I ...
続きを見る
生きものに会いに行こう
水族館の生きものに会いに行きましょう。
地球にはいろいろな生きものが共生していることを実感することも、海や魚のためにできることのひとつです。